道尾秀介『骸の爪』

mhk2006-06-21

骸の爪

骸の爪

滋賀県南端の山間に位置する仏所・瑞祥房に仏像の取材に出かけた道尾はその夜、不可解な現象に遭遇する。20年前に失踪した仏師が遺した千手観音が口を開けて笑っていたのだ。後日、現像したフィルムの中には、割れた頭から血を流す一体の仏像があった。そしてまたひとり仏師が消える――
張り巡らされた伏線、バラエティに富むトリック、「きみが見た夢の中で、蚊の群れは左から飛んできたのではないかい?」(ネタバレではないと思う)など印象的なフレーズに作者のセンスを感じます。爆発力という点においては『向日葵の咲かない夏』だと思うのですが、シリーズ作品できちんとレベルアップが示せるのは好感触。まだまだ作家としての伸びしろを感じさせます。比較的淡白な描写は意図的に採用したのでしょうか? 物語の舞台が舞台だけに、仏像関係の描写はもっと執拗にしてもよかったかも。

コミダス キーワードで学ぶ現代マンガの基礎知識 No.01-4: メイド





http://blog.excite.co.jp/mangaword/5020822

あうーすみません、完全に一週間サボりました。森薫さんインタビューの第4回。ヴィクトリア朝の魅力とか、メイドに目覚めたきっかけとか。

追記:インタビューに誤りが発見されました。
×:最終回の1話前に → ○:最終回の2話前に
です。(既に修正済みです)申し訳ありませんでした。

コミダス キーワードで学ぶ現代マンガの基礎知識 No.01-3: メイド





http://blog.excite.co.jp/mangaword/4951462

あうーすみません、ほぼ一週間ぶりです。ということで森薫さんインタビューの第3回。次回作の予定とかなんとか、ですが間の悪いことにExciteブログ緊急メンテナンス中なんですね。とほほほ。

このコメントスパム、なんなんでしょうねえ。

http://d.hatena.ne.jp/mhk/20060529/p1
とか。
困ったものだ。なんかいい対策はないものでしょうか。
19:02追記:一時的にコメント欄記入をはてなユーザーだけに限定することにします。
19:18追記:とりあえず削除完了したと思います。

ウィル・セルフ(訳:安原和見)『元気なぼくらの元気なおもちゃ』

元気なぼくらの元気なおもちゃ (奇想コレクション)

元気なぼくらの元気なおもちゃ (奇想コレクション)

ウィル・セルフ初の邦訳短編集。ここにあるのは異様な設定とそれに続くどんよりとした展開だけ。カリカチュアされた現実のビジョンを「だめだこりゃ(でもどうしようもない)」とただ眺めるしかない、そんな感覚です。物語の前提はおかしい、けれどそれがサプライズに結びつくわけでもない。最初からねじれてるんだけど、さらに強烈なツイストが加わるわけでもない。だから拍子抜けと感じる人も多そう。
引っ越した家の水道からジュースが出たよ! 不思議!! みたいな「リッツ・ホテルよりもでっかいクラック」は、たぶん読者が予想しない方向になんとなく着地して終わり。内面にいる「子供」が実体化どころか巨大化して「大人」と寄り添って暮らすという、奇想コレクションにふさわしい設定の「愛情と共感」は、最後のオチがこれか……。
このウィル・セルフという人、12歳で麻薬をはじめ、17、8歳には立派なジャンキーになってたらしいんですが、お父さん大学教授らしいし、本人もオックスフォードの哲学科卒業してたりして、賢いんですわ。そのクレバーさが作品に作用していて妙にもやもやする。物語としての面白さでいえば「リッツ・ホテルよりもでっかいクラック」の後日談にあたる刑務所ストーリー「ザ・ノンス・プライズ」ですが、クレバーないやらしさが出ている点で表題作「元気なぼくらの元気なおもちゃ」がウィル・セルフらしいのでは、と思うのでした。「リッツ・ホテルよりもでっかいクラック」→「ザ・ノンス・プライズ」における弟テンベの変わり身の早さってウィル・セリフ自身の投影なんじゃないかと勝手に想像しますが、ちがうかしらん。

ジョナサン・キャロル(訳:浅羽莢子)『パニックの手』

パニックの手 (創元推理文庫)

パニックの手 (創元推理文庫)

やっと文庫化された! キャロル唯一の短編集『パニックの手』が邦訳に際して二分冊されたものの前半。後半『黒いカクテル』も今月末くらいに出るはず。ハードカバー版はなかなか見つからなくて、読みたくなるたびに図書館で借りていた。新装丁シリーズのカバーイラストは素晴らしいなあ。全部出し直してくれるとうれしい。
キャロルは短編もかっこいい。解説の津原泰水も書いてるように、やはりこの人だけは特別だ。誰もこうはなれない。書けない。こういうのを読みたければ、キャロルのを読むしかない。
長編『空に浮かぶ子供』ISBN:4488547044フィドルヘッド氏」は、四十になったわたしが親友のレナにプレゼントされた出所不明のイヤリングに端を発する物語。最後の4行にぞくりとする。まあ、自分は、どれもいい、不完全なところを含めてどれもいい、などと書いてしまうキャロル・フリークなわけだけれども、「おやおや町」、「細部の悲しさ」、「秋物コレクション」を収録作のベストとして挙げてみよう。大学教授の家にやってきた人なつこい掃除婦が……という「おやおや町」は、びっくりするほどのキャロル節。人が思わず目を背けてしまう部分――人生がいかに残酷で不条理なものか――を否応なしに突きつけてくる。普通こんなこと考えないよ! という奇想と終盤のキャロル展開でこの本のベスト。それに続くのが、やがて死ぬことが決まった男の物語「秋物コレクション」。この並びはいいね! 「細部の悲しさ」も奇想系。しかし、キャロルはデス・メタルとかそういうの嫌いなのか。悪の象徴のようだ。これらのほか、世界幻想文学大賞受賞作「友の最良の人間」や表題作「パニックの手」(これもよくこんなこと思いつく)全11篇が並び、新装版『死者の書』ISBN:448854701X『パニックの手』(と『黒いカクテル』)あれば、キャロルのなんたるかがそれなりに把握できるはず。ぼくが手放しで賞賛・敬愛・羨望・尊敬できる数少ない作家のひとりとしてキャロルのこの『パニックの手』はオススメしたい。
ところで、「パニックの手」ラスト3行の意味がよくわからなくて、自分の読解力に不安がよぎる。えーと。

  • WEB拍手コメント(感謝!)へのレス: いや、僕もそうだろうなとは思うんですけど、いささか唐突にすぎる気がして、なんかほかに解釈あるのかな、と。(具体的に書くとネタバレになってしまうのでご容赦ください)