道尾秀介『骸の爪』

mhk2006-06-21

骸の爪

骸の爪

滋賀県南端の山間に位置する仏所・瑞祥房に仏像の取材に出かけた道尾はその夜、不可解な現象に遭遇する。20年前に失踪した仏師が遺した千手観音が口を開けて笑っていたのだ。後日、現像したフィルムの中には、割れた頭から血を流す一体の仏像があった。そしてまたひとり仏師が消える――
張り巡らされた伏線、バラエティに富むトリック、「きみが見た夢の中で、蚊の群れは左から飛んできたのではないかい?」(ネタバレではないと思う)など印象的なフレーズに作者のセンスを感じます。爆発力という点においては『向日葵の咲かない夏』だと思うのですが、シリーズ作品できちんとレベルアップが示せるのは好感触。まだまだ作家としての伸びしろを感じさせます。比較的淡白な描写は意図的に採用したのでしょうか? 物語の舞台が舞台だけに、仏像関係の描写はもっと執拗にしてもよかったかも。