オーソン・スコット・カード『消えた少年たち』

消えた少年たち〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

消えた少年たち〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

消えた少年たち〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

消えた少年たち〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

新天地を求め、ノースカロライナに引っ越してきたフレッチャー一家。父親のステップは〈ハッカー・スナック〉というゲームを大ヒットさせたゲームデザイナーであるが、財政上の理由から、とあるコンピュータ会社のマニュアル作成係という職に甘んじざるを得ない状況にある。妻ディアンヌと助け合って難局をなんとか乗り切ろうとするものの、先行きははなはだ不安だった。また、この引越しはフレッチャー家の長男であるスティーヴィにとってたいへんなショックだったようで、その孤独癖はますますつのっていった。そんなスティーヴィにも何人か新しい友人ができたようだったが、その姿を見たものはいない。孤独な心が空想の友人を作り出しているのか……? フレッチャー一家の周囲で奇妙な出来事が起こり始めた。
いまごろ読みました。なるほど、これはなかなかすごいです。読んでも読んでも少年が消えないのでびっくりしましたが、……こう終わるのか、と。そこらへんにいそうなリアルに嫌な感じの人たちの中で、困難な状況をなんとか乗り切ろうとする夫婦小説の中から、最後の最後になって別のものが立ち上がってくる。不意打ちにも近い衝撃があって、小説の作りとしては正直、歪なのではないかと思いますが、奇妙な熱をはらんでいる物語にぐいぐいと読まされてしまう。たいへんな力を持った作品だと思います。現時点の自分が読んでもかなりすごい作品だと思いますが、子供ができてから読んだらまたさらに強烈な印象を受けるはず。その意味ではこの作品の持つ痛みやら悲しみやらは完全に理解できていないと思います。