小林泰三『脳髄工場』

脳髄工場 (角川ホラー文庫)

脳髄工場 (角川ホラー文庫)

小林泰三の最新短編集。
脳内回路の不均衡を是正する人工脳髄。犯罪者矯正のために開発されたそれはやがて健全者の証明とみなされ、未装着者の方を「天然脳髄」と特別視する社会を形成していった……という書き下ろし表題作「脳髄工場」は小林泰三版「しあわせの理由」か。
イーガンがケミカルでさらっと処理しているところを、小林泰三は、大根みたいな「脳髄」を脳みそにぐっさり突き刺してみせる(しかも床屋が!)。この悪趣味さがたいへん小林泰三らしいです。どう読んでも中身はSFなのに、グロホラーで書いてあるんだよなあ。やってることはイーガンで、その根本にはディックがあって、でもやっぱり小林泰三だ、みたいな短編でありました。
クトゥルーものをこんなふうに書いてしまう「C市」もすばらしい。こんなこと、小林泰三にしかできません。SANYOの企業誌(だと思う)「YOU & I SANYO」に掲載されたショートショートが何作か収録されているのも貴重かも。
しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)