「猿牧場」

空港の待合ロビーみたいな場所からモノレールに乗り込んだ。目的地はよくわからない。後ろに流れていく風景を車窓からながめているうちにうとうとと眠りこんでしまった。空を飛んでいたような気もする。
どこかの駅に着いた。
改札を抜けるとそこはいきなり狭い路地になっていて、迷路のように入り組んだ小道をでたらめに抜けると開けた場所に出た。
そこは女子大のキャンパスのようだった。
べつに用事はないけれど近道のため構内をショートカットさせてもらおうと思う。カフェテリアらしきところにモニタがいくつも並んでいて、そこには同じ番組がかかっている。
人形を小脇に抱えた中年の男が芸をしている。彼は自分の兄弟子だと思い出した。
腹話術師である自分は修行の厳しさに耐えかねて逃げ出してここまでやってきたのだ。
どこかのホールからの中継で、キャパシティ何万人規模のでかいハコだ。成功をつかんだ兄弟子にひきかえ、自分は何をしてるのだろうと考えた。
しかし、足は止まらない。
キャンバスを抜けていく。
ログハウスのような建物がいくつも並んでいて、それはどうやら女子寮らしい。
ログハウスの近くには公園にあるような鉄棒があって、寮生らしい女の子がくるっと逆上がりしてるのが見えた。
僕に気づいた彼女はちょっと恥ずかしそうな顔をした。
「向こうには何があるの」
指さした先にはキャンパスの終端があった。
「行けばわかるわ」
ちょっと肩をすくめて、「わたしはあまり行きたくないけど」
本当に細い裏門を抜けると、またも路地だった。
とつぜん、ケモノの匂いがする。
そこはニホンザルの牧場で、でもニホンザルにしてはちょっと大きい。自分と同じくらい、立ち上がって170cmくらいになるサルだ。
そのサルが、長屋くらいの大きさの檻の中に何百頭とひしめいている。
狭い檻に無理矢理詰め込まれているからだろう、ストレスからやたらに気が立って、誰かれかまわず牙を剥き出しに吠えかかったり、餌の食いカスを投げつけたりしている。
嫌な気分になりながら、それでもしばらく眺めていると、サルの中に奇形のサルがいることに気づいた。
たぶん子供なのだろう、1mくらいの身長で、まるでスケルトンフィッシュのように全身が透けている。内臓や筋肉も透けているらしく、曇りガラスを透かしてみるように向こうがわの風景が見える。
恨めしげに見開かれた目玉だけが半透明の顔の中に浮かんでいて、ボロボロになった体毛が身体のといころどころに残ってサルらしきシルエットを浮かびあがらせている。
ちょっとさわっただけで崩れ落ちそうで、見ていて本当に怖かった。
いつのまにか細い路地の中にサルが放されている。
自分と同じくらいの大きさのニホンザルの群れに囲まれて動けなくなっている。
透明の子ザルがよろよろと僕のほうに近づいてくるのが見える。威嚇音と同時に牙を剥いた。
牙の色は透明ではなかった。