アーヴィン・ウェルシュ(訳:池田真紀子)『グルー』

mhk2006-02-28


グルー

グルー

トレインスポッティングISBN:4042785018 のアーヴィン・ウェルシュ新刊。イギリスのでは鬼畜警官ノワール『フィルス』と『トレスポ』続編『ポルノ』のあいだに出た作品です。
映画(トレインスポッティング DTSスペシャル・エディション 〈初回限定生産〉 [DVD])のヒットのせいか、どうも『トレスポ』だけの人かと思われがちなアーヴィン・ウェルシュですが、じつはどの作品読んでものすごく面白いのです。読め読め。


今回の主人公たちはこんな感じ。

  1. テリー・”ジュース”・ローソン:筋金入りの女たらし。あるいは強迫観念的なセックス狂。
  2. カール・ユアート:クラブDJ。比較的クールな上昇志向の持ち主。
  3. ビリー・バレル:男気のあるスポーツマン。かつてはサッカー選手を夢見ていたがプロボクサーになる。
  4. アンドルー・ギャロウェイ:内省的で優しすぎる性格。しかしその性格が災いして巻き込まれたトラブルをひきずったまま、泥沼へと……。

彼ら4人の両親が、エディンバラの郊外に位置する公団住宅に移り住んでくる1970年代から2000年にかけての30年間を、それぞれタイプの異なる4人の男を主人公(視点人物)にして描くというお得意の形式。
「じゃあ、『トレスポ』とおなじじゃん!』なのかといえばさにあらず、レントン、シック・ボーイ、ベグビー、スパッド、それなりに愛すべき人間ではあるもののあまりにもクズすぎた『トレスポ』キャラたちと比べて、『グルー』に出てくる4人はかなり真っ当な人間たちです。(テリー以外は)
『トレスポ』のベグビーは酒場で隣り合わせた人間をほとんど意味なくバッドで血みどろにするようなサイコさんで、リアル大人ジャイアンといえる恐怖の大王なわけですが、この4人だったらわりと安全。友人関係結んでもそれほど問題はなさそうです。


クソのような状況の中、普通では考えられないような人間関係、物語展開の中から逆説的に青春を描いてみせたのが『トレインスポッティング』だとしたら、この『グルー』はそのクソのような状況の中でもそれなりにちゃんとしようとあがく(テリー以外は)男たちの半生記みたいな感じでしょうか。童貞喪失の瞬間から、ダメ中年の悲哀までをUKカルチャー盛り込みつつ描き出します。
セックス・ドラッグ・ウンコてんこもりの、下品で猥雑でパワフルないつものウェルシュ節なんですが、いままでの作品の中でも読後感のよさはいちばんかも。『グルー』=腐れ縁の友情物語なんですね。ぐるっと反転したらあれれ?「いい話」になっちゃった裏『トレスポ』みたいなもんでしょうか。
実際『トレスポ』の登場人物たちも脇役としてカメオ出演してますし、『トレスポ』で語られたエピソードの後日談もさらっと語られたりします。


どうしようもないクズたちの最低の生を不思議と心に響く物語に仕立ててしまうウェルシュマジックは健在で、のめりこむように読まされてしまいました。なんだろうね、この魔法は。『マラボゥストーク』、『フィルス』など、文庫化されないまま入手困難になってる傑作も多いんで、角川さん出してくれないかなーと思うのでした。


ちなみに『トレスポ』続編である『ポルノ』で、30代になったシック・ボーイと組んでポルノ映画を撮るテリーは『グルー』に引き続いての登板だったのでした。これを機会に『ポルノ』再読してみようかな。

トレインスポッティング ポルノ

トレインスポッティング ポルノ