マーガレット・ミラー(訳:汀一弘)『マーメイド』 Amazon

弁護士のトム・アラゴンは事務所で少女を迎えた。クリーオウと名乗るその少女は22歳という年齢にしては幼く見えた。彼女は知恵遅れだった。さしたる相談事項もなく、謎めいた台詞だけを残して彼女は去っていった。そして数日後、クリーオウが失踪したという知らせが届く。彼女の捜索に狩り出されたアラゴンだったが、彼の行動が人々の間に思わぬ波紋を投げかけていく……。

しまった、『明日訪ねてくるがいい』から続くシリーズの2作目から読んでしまった。(まあ、ほとんど問題なかったと思うけど)
前作『ミランダ殺し』Amazonと同じく、ユーモラスな筆致で描かれるドタバタ劇にも似た展開の裏でたいへん残酷なことが起こっているという非常に意地の悪い物語。しかも、物語全体は奇妙な美しさをたたえていて、なんだこれは? と不思議に思います。物語がどこに落ちるのか、読者の予想を裏切り続ける手わざの鮮やかさも素晴らしい。たかだか300ページの物語によくもここまで色々なことを書けるものだなあ。
夫であるロス・マクドナルドに死なれ、自らは失明するという状況の下でこんな物語を書いてしまうとは、やはりミラーは凄まじい人です。