ジョージ・R・R・マーティン(訳:酒井昭伸)『タフの方舟 1 禍つ星』

mhk2005-04-24

ISBN:4150115117
おもしろすぎる! すばらしい!
2メートル半の巨体、でっぷりとした腹はせり出して、全身無毛の肌はまるで漂白されたよう、という奇異な外見をした宇宙商人ハヴィランド・タフの活躍を描く連作集。「禍つ星」、「パンと魚」、「守護者」の3作を収録。
慇懃な「……でございます」口調で、すごいことをしでかし、あこぎなんだか、誠実なんだか判断がつかないタフのキャラが強烈。物語の展開が痛快で、後味もすっきり爽やかだからか、受ける印象は異なるけれど、喪黒福造系の怪人物である。

  • 「禍つ星」

周囲の惑星に災厄をもたらすという〈禍つ星〉。巨万の富と絶対的な力を手にするため、〈禍つ星〉に赴いた5人を待ち受けていたものは……。タフが方舟を得るまでを描いたはじまりの一篇。爆笑生物兵器など奇怪なガジェット群と、一癖も二癖もある曲者登場人物たちを大量投入して仕上げた、異様に愉快なドタバタ劇。ただただ、楽しいだけだ。

  • 「パンと魚」

教義により人口爆発が深刻化した惑星を訪れたタフ。〈方舟〉号に目をつけた惑星政府は暗躍を始めるが……。きっぷのよい女ポートマスターを準主役にしたシリーズ内三部作の一作目らしい。

  • 「守護者」

怪物の出現に苦しむ海洋惑星に立ち寄ったタフが暴いた驚愕の真実とは……? 謎の解明からびっくりオチという、オーソドックスな展開の一篇。
グログロと駄洒落を封印した「きれいな田中啓文」という印象。美味そうな食い物は出てくるし、怪獣小説だし。必然性はほとんどないのにやたら猫ちゃんを使いたがる(作者が)ところもへんてこ。エンタテインメントとしてきわめて高い水準にある。とにかく楽しい一冊である。来月出る『天の果実』で全2巻完結というのはじつに惜しい。