小説現代特別編集 エソラ [esora] Vol.1

mhk2005-01-08

ISBN:406179552X
5つの小説と5つの漫画を収録した雑誌。エソラとは「絵空事」のエソラとのこと。

うーむ、判断に苦しみまする。面白いんですけど、小説の出来云々ではなくヒドい小説という気がしないでもない。原稿用紙300枚と短めサイズだからか、自分にとって伊坂作品のこらあかん、と思う部分がむき出しなので。
ある日突然、自分に人間腹話術ともいうべき超能力が備わったことに気づいた主人公が、日本を包み込まんとするファシズムの波に抵抗を試みるという話で、えーと、この主人公がいちばん性格悪なんでは? そもそも伊坂作品って、議論の余地がない絶対悪が登場するから相対的に良い者になってしまう、爽やかな筆致により錯覚してしまう、わけでどいつもこいつも人好きしない輩ばかりが主役張ってると思われます。しかし、この『魔王』の主人公ほどヒドい奴はいない。腹話術の実験台に使った平田さんとか初々しいカップルやらが取り返しつかない事態に陥ったらどうする気なんだ! 伊坂幸太郎がそういう結果を用意したから丸く収まっただけで行為だけみたらかなり悪質。考えることも「中二病か?」とか思う幼いものだし、困ったものですよ。冒険野郎なんぞを倣ってるからでしょうか。
つまり、ファシズムの先導者的な描かれ方をしている未来党の犬養が絶対悪でないから、主人公のダメさが目立ってしまうわけで、遥か以前から自分なりのビジョンを持って行動し、各方面のブレーンなど基盤固めも万全な犬養と、降ってわいた超能力で悪戯ざんまい、それ以外はあんまり何もしない主人公とではどちらが人として正しいか明白でしょー。
……とここまで書いたところで、この物語が「気がつけばすでに手遅れになってる」物語だと気づき、ならば、「考えろ考えろマグガイバー」と唱えながらもろくなことを考えられなかった男の視点で物語を描くというのは意図的なものなのかもしれないなあ、と思いました。ロックバンドのライブに出かけて「これは一種のファシズムだ!!」と突拍子もないこと言いはじめたり、

「ご通行中の皆さん!」と訴える、見慣れた政治家の演説とは明らかに異なっている。おそらく、こういったイベントを企画するのも、犬養の周りには、専門のセンスを発揮する協力者たちがいるに違いない。狡猾で、抜け目がない。

などと、偏見を忘れないあたり、本当に困ったものです。それは言わなくていいだろう。
伊坂作品読んでてたまにひっかかるのは、無自覚な無神経さがそこかしこに見られるからかな、と思います。最近読み残しまとめて消化していて、楽しめてはいるんだけど、手放しでは褒められない。単純化がすぎないか、とか気になって、やはりセンス的に相容れないものがあります。いや、好きな人がいるのは充分理解できるんですが、僕にとっては困りものです。

小品。綺麗にまとまってるけど、さしていうこともなし。

これもヤバいなあ。世界構築がすごく杜撰なので、肝心のトリックもただ言ってみただけ状態になって説得力がまるでありません。えー。

廃棄場に不法投棄されるゴミの中から値打ちものを発掘して日々の糧を得るホームレスたちを描いた話。なかなか面白いけど、ちょっと淡々としすぎている気もする。登場人物の名前が「チャボ」「猿ゲバ」「ネズミ」とかなんで『ガンバの大冒険』とか、そんな話みたいに見える字面である。

漫画はどれも尺が短く、各作家のサンプラーっぽくなってる。五十嵐大介については今回の倍くらいページ数あげて『魔女』掲載作くらいのものを描かせてあげればいいのに、と思われた。安彦麻理絵はまあ、いつもの感じ。