「びっしりネズミ」

名鉄急行に揺られている。
この車両はずいぶんがらがらで、向かいの座席に座っているおばさん二人とぼく以外には誰も乗っていない。
がたんごとん、がたんごとん、という単調な揺れに身を任せて眠ってしまおうかと思うのだけれど、おばさんたちの会話がかしましく耳に響いてきて眠れない。
聞く気はないのだけれど、否が応でも耳に入ってくる。
「だからさあ、思い切って脱いじゃえばいいわけよ。問題ないって」
向かって右側に座っている四十歳くらいのおばさんが言う。なんのことだろう。
もうひとりのおばさん(こっちはもう少し若い、たぶん三十代半ば)は、「そうかしら」などと言う。
突然、車内のボリュームが上がった、と思ったら、列車が陸橋に差し掛かった。
うるさいくらいに、がたんごとん、がたんごとん、と響く。車窓から眼下に広がる川の水面に陽がきらめいて、おばさんたちの姿は反転してふたつのシルエットになる。もう、おしゃべりは聞こえない。
列車が陸橋を抜けた。
「……たくしあげてみたわけ。そうしたら、ほら! ネズミの赤ちゃんがびっしり! ひしめきあって! チューチューと!」
「痛くないの?」
「それがぜんぜん! 次の朝から目覚めがちがうのよ!」
なんの話なのだろう。たいへん気になった。