ジョナサン・キャロル(訳:浅羽莢子)『蜂の巣にキス』

絶賛スランプ中のベストセラー作家サムがまたとないアイデアを思いつく。ミステリアスで奔放で、憧憬の対象だった美少女〈蜂の巣〉――30年前、ぼくは彼女の死体を発見した――彼女の事件を書こう! しかし、サムの愛読者であり、〈蜂の巣〉と同じく謎めいた女性・ヴェロニカの登場を期に、過ぎ去ったはずの過去はサムに牙を剥き始める。
田舎町クレインズ・ヴューを舞台にした新シリーズ。30年前の殺人事件を取材しているうち、いつしか……という過去探しミステリであり、ファンタジー風味は皆無であります。シャーマンのヴェナスクをはじめとするいつもの半レギュラー陣は登場しません。しかし、『死者の書』のマーシャル・フランス作品、『空に浮かぶ子供』の「深夜」シリーズと同様、他人のものだったはずの物語を追い求める主人公がいつしか悪夢の渦中に放り込まれたことに気づく、という構造はキャロルの真骨頂で、今回もぞくりとさせられます。あと、キャロルは細部が素晴らしいんですよね。これはぜひ実際に味わっていただきたいです。
『パニックの手』、『黒いカクテル』の短編集×2も文庫化が決まったようで、やったー!