ジェフリー・フォード(訳:山尾悠子/金原瑞人/谷垣暁美)『白い果実』

mhk2005-01-04

ISBN:4336046379
科学と魔法に長じ、自らの内面を〈理想形態市〉なる都市として具現化するほどの能力を有する独裁者ビロウの命を受け、観相官クレイは辺境の町アナマソビアに派遣される。聖教会に祀られていた〈白い果実〉が盗まれたので、観相学を以って犯人を挙げろとのことだ。いつまでも腐ることのない〈白い果実〉には、食べた者を不死身にするという噂もあった。
厳密には再読。慌しい時期に大急ぎで読んだので正月休み使ってじっくり読み返してみました。
労働の果てに自ら青き石と化す鉱夫、奇怪で独特な観相学測定器具、森に潜むという魔物、丸天井の建物が連なり、クリスタルとピンク珊瑚で飾られた〈理想形態市〉造形、幻想に彩られた舞台の中で、ツラ構えをもって犯人を当てるという推理もへったくれもない直感(濡れ衣も多し)探偵がいい加減かつ非人道的な捜査を繰り広げます。〈美薬〉なるドラッグに溺れ、師であるフロック教授の幻覚を目にしながら、周囲の人間を小馬鹿にしつづける観相官クレイの性格がとにかく厭らしい。すごい。

 多人数の愚鈍な聴衆を前に話すときに決まって私が用いる方法があった。かれらを私の言葉に集中させる手段だ。まず聴衆の数人の相を観て予言をする。そうすれば誰しも心を惹きつけられずにはいられない。「そこの人」私は客たちの前を大股に歩きながら、指差して言った。「あなたは死ぬまで貧乏暮らしをすることになるだろう。帽子に花をつけている、そこのご婦人。ご亭主を裏切っていいのかね? あなたは一年以内に死ぬ。赤ん坊が生まれる。難産だが、何の価値もない、出来損ないの赤ん坊だ。娘さん、あなたと結婚する男はあなたを殴るようになる」割れるような拍手が起こり、私は頭を下げた。

イメージとしてはこの上なく美しいのに、起こってる事件は狂騒的に阿呆らしい。感触としては異なるんですが、テリー・ギリアムとかの諸作品を思い返すとちょっと似てるかも。3部作だそうなので、完結が待ち遠しい。