「近所なのに」

実家にいる。
自分は何かの試験を受けなければならないらしい。
その試験を受けるのは自分だけではない。どうやら、この4丁目に住む自分と年恰好が同じくらいの若者全員が対象のようだ。
駅前の掲示板に試験日程と会場が告知されていた。
試験は3日間にわたって行われるらしい。しかし、何のための試験なのかはわからない。試験会場として近くの寺の名前が書いてあった。
「宿の予約はこちら」
駅前広場には、小学校の運動会でよくみられるようなテントが設置されていて、その前には若者たちが長蛇の列をなしている。
田舎町である。それなりに格式があるホテルからビジネスホテル、連れ込み宿のとなりまで、すべての宿泊施設をフル動員したとて、そのキャパシティはしれている。先着順からマシな宿を取ることができるわけだ。
しかし、考えるまでもなく近所の寺である。
歩いても、たかが2〜3分しかかからない距離で、なんで宿を取らなければならないのか。毎日実家から通えばいいわけだ。
そう思って並ばなかった。
予約は締め切られた。
そして掲示板に新たな告知がなされた。試験に実家から通うのはどうやら禁止されているようだ。
駅前にはあの日と同じくテントが設営されていて、そこには自分と同じように考えて宿を取らなかった若者たちが説明を求めて集まっている。
「3丁目の連中はそのことについてきちんとアナウンスすべきだった」
誰かが息巻いている。
「事と次第によっちゃ、おとなしくすませるつもりはないぞ!」